日高山脈が国立公園に? ~ 日本最後の秘境を守ろう!

2020年9月10日

幌尻岳地図
GIS「JSMAP2」で夕張岳データを使って作成しました

日高山脈はすでに「日高山脈襟裳国定公園」として国定公園に指定されていますが、2021年度にも国立公園に格上げされそうな運びになっています。(※延期が続き、2024年夏頃のようです)

そこで、日高山脈の魅力について紹介します。

1.日高山脈の概要

芽室岳
パンケヌーシ岳より芽室岳

日高山脈は、大雪山と並んで北海道の屋根を成す150kmに及ぶ山脈です。北は狩勝峠の北側にある佐幌岳から始まり、南は襟裳岬で海に没します。最高点は幌尻岳で、標高が2,052mと、大雪山以外では北海道唯一の2,000峰です。

日高山脈の最大の特徴は、氷河地形が残っていることです。日本アルプスに見られるカール地形が、日高山脈にもあるのです。日高山脈は雪がそれほど多い地域ではありませんが、1万年前の最終氷期にも氷河が存在していました。

大雪山の方が雪が多いし標高も高いので、大雪山にもカールがあってもおかしくないのではと言われます。実際に怪しい地形がたくさんあり、恐らく一部は氷河地形だと思いますが、火山性の大雪山の山々にあるカール地形は保存状態が良くありません。対して非火山性の日高山脈には、はっきりとした氷河地形が残っています。

また日高山脈は、人里離れた山深さが他とは段違いです。一番人が訪れる幌尻岳にしても、人家のある場所から数十キロも山に入ります。下界から隔絶される感覚は、日高山脈に行くときが一番大きく感じます。

そんな自然が日本で一番保持された日高山脈が国立公園化されそうです。自然の豊かさから言えば当然のことですが、簡単には魅力にたどり着けないので、時間が掛かりました。

2.代表的なカールをご紹介!

日高山脈の魅力はカールです。日高山脈を代表するカールを紹介します。

七ツ沼カール

幌尻岳
出典:平取町 公式

七ツ沼カール(写真左下)は、幌尻岳の東側にある日高山脈を代表するカールです。名前のとおり、カール底に沼が点在しています。カール底は高山植物の宝庫でもあることから、ヒグマも良く姿を現します。そのため、テント泊は注意が必要です。

沼の水は、秋には枯れることが多いです。水を湛えた姿を見たい場合は、夏に行くと良いでしょう。

北カール

北戸蔦別岳から幌尻岳を望む。幌尻岳山頂から山腹にかけて北カールが広がる。

北カールは、幌尻岳の北側にあるカールです。幌尻山荘から幌尻岳への登山道を進むと、北カールの縁に着きます。そこから幌尻岳山頂まで、北カールの縁沿いに登山道が続きます。

道には高山植物がいっぱいで、ナキウサギの鳴き声がこだまする素晴らしい道です。私が登った登山道の中でもトップクラスのお気に入りの道です(登ったのはずっと昔ですが)。機会があればぜひ行ってみてください。

八の沢カール

カムイエクウチカウシ
カムエク山頂から左下に八の沢カール

八ノ沢カールは、カムイエクウチカウシ山(1,979m)にある有名なカールです。カムイエクウチカウシ山には正式な登山道がなく、登山上級者でないと登れません。カール直前には滝が連続する危険な場所があり、滑落すればタダでは済みません。

そんな道を詰めると、八の沢カールの絶景が広がります。ヒグマに襲われた事件のイメージが未だに強いですが、それ以降、北海道でヒグマによる登山者の死亡事故は起きていません(2022年、2023年に発生してしまいました)。適切な行動を取れば、ヒグマ襲われることはないでしょう(時代が変わり、そうは言えなくなりました。十分な対策が必要です)。

トッタベツカール

戸蔦別岳
左が戸蔦別岳で、右が北戸蔦別岳。

戸蔦別岳(1,959m)の東側には、トッタベツカールがあります。トッタベツカールは3つのカールで構成されていて、A,B,Cと番号が付けられています。

トッタベツカールに行く道はなく、沢登りでも通らない場所なので、ほとんど人が訪れない秘境と言えるでしょう。伏美岳から良く見えるカールです。

十ノ沢カール

十の沢カール
ほぼ中央にあるのが十の沢カール

十の沢カールは、私が日高山脈で一番好きなカールです。札内川の奥に位置するエキスパートの登山者しか行かない場所ですが、十勝幌尻岳山頂からの姿が素晴らしいです。

ペテガリ岳カール

ペテガリ岳
GIS「JSMAP2」で広尾データを使って作成しました

ペテガリ岳(1.736m)東面にもカールが3つあります。トッタベツ岳と同じくA,B,Cと番号が振り分けられています。十勝平野から日高山脈のカール地形は良く見えないのですが、ペテガリ岳のカールだけはハッキリと見えて、迫力があります。

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日高山脈カールの一覧


日高山脈にあるカールの一覧を作ってみました。名称で私が勝手に付けたものがありますことをご了承ください。また、無名のカールもまだまだあります。ピパイロ岳から北戸蔦別岳にかけてや、ペテガリ岳からトヨニ岳の間には、カールがいくつもあります。そのため、地図で探してみるのも楽しいと思います。

3.気軽に楽しめる日高山脈の場所は?

日高山脈の真髄を楽しむには十分な経験と気力が必要ですが、すそ野であれば気軽に楽しめる場所があります。これまでにも記事として用意していますので、ぜひご覧ください。

4.日高山脈博物館

日高山脈をより詳しく知りたいのなら「日高山脈博物館」に行ってみましょう。場所は日高町本町にある道の駅の隣です。これが4階建ての立派な施設で、各階の展示も充実しています。

オフィシャルサイトがあります。

日高山脈博物館では、「自然体験プログラム」が実施されています。日高山脈で見つかる岩石観察や、ジオサイトへの訪問、森の探索、昆虫観察など、面白いプログラムが数多く実施されています。ぜひ、参加してみましょう。

5.帯広自然保護官事務所が開設される

日高山脈襟裳国定公園が国立公園に格上げされるため、先に帯広自然保護官事務所が2021年06月29日に開設されました。国立公園に指定されるまでの準備が行われています。

普段は目にすることのない、カムイエクウチカウシ山エサオマントッタベツ岳などの様子も報告されています。日高山脈の姿が、これから身近になっていきそうです。

6.自然を守るための国立公園化であるべき!

日高山脈
makieniさんによる写真ACからの写真

日高山脈が国立公園に昇格するのは喜ぶべきことですが、すでに観光需要を見越した動きが見られます。

しかしながら、日高山脈の魅力は手付かずの自然です。そして、日高山脈の素晴らしさが実感できる場所は人里から遠く離れた場所です。そこを観光地化するには莫大なお金が必要です。かつての日高横断道路の二の舞は避けなければなりません。個人的には、観光需要としての国立公園化は反対です。

日高山脈が国立公園になることで期待したいのは、自然の保護です。私はかつて登山をしていましたが、日高山脈の日高側に別格の自然度を感じました。これは、大雪山知床でも感じることができません。その自然をいつまでも残すための国立公園化であって欲しいです。

その後の推移

2024年2月22日

環境省の中央環境審議会自然環境部会で、「日高山脈襟裳十勝国立公園」の名称にする方針が決まりました。私には、どうすることもできません。残念です。

2022年6月9日

2022年12月頃に延期となった日高山脈の国立公園化ですが、さらに延期となりそうです。

原因は、国立公園の面積が2倍程度に拡張されるそうですが、一部の民有地の所有者が国立公園になることを認めていないからのようです。国立公園に指定されると、いろいろ土地の利用が制限されます。

個人的には、今の領域で十分だと思うのですけれどね。自然を守るための拡張なら歓迎ですが、観光地化して経済効果を求めるのであれば、無理に広げて欲しくありません。

面積が広がることにより、国立公園名に「十勝」を加える方向で動いているようです※。国立公園エリアに十勝も含まれることは確かですが、国立公園名に入ってしまうと、日高山脈としての国立公園が曖昧になってしまいます。皆さんはどう思いますか。

※2024年2月1日に関係する13市町村が十勝の名称を加えるように国に要望書を出したそうです。私は「日高山脈国立公園」で良いと思います。十勝って、大雪山や阿寒も含まれるのですよ。⇒自然保護団体だけでなく、日高町村議会議長会まで反対の意見書を出しました。日高側の承認を得ていたはずでしたが、そうではなかったようです。

2023年6月13日

環境省から、日高山脈襟裳国定公園の国立公園化は2024年中という発表がありました。それに向けて手続きを進めているとのことです。